昼休み。ちょうどいいタイミングで、桜川さんを見つけ食事に誘おうと近づく。最近めっきり利用者の減った喫煙スペース。視界をさえぎる柱を超えると、桜川さんの向かいに河合さんの背中が見えた。手で顔をぬぐう仕草。泣いているのだろうか。
桜川さんは俺に気づくと、目で、向こうに行くように指示した。俺はうなずくと、きびすを返した。
ドクドクと心臓が打つ。泣いている河合さんを前に、桜川さんは困った様子もなく、慰めるでもなく、ただ無表情に見下ろしていた。整った顔がいっそう近寄りがたくさせる。河合さんに同情しつつも、胸の底には、確かに優越感があった。
「メシ、食ったか」
桜川さんが一人で、こちらにやってくる。
「あ……もう、いいんですか?」
「ああ」
「……」
「何だったんですか?」とは聞きづらい。
「俺、先に食ったんで……」
どういう顔をしてみせればいいのか、なぜか気まずくて、とっさにうそをついた。
「そうか」
目に宿るかすかな優しさに、胸が痛む。
「じゃ、行ってくる」
その背中を見送って、なんとなく、誰もいない喫煙コーナーに戻る。
河合さんの姿もなかったが、ゴミ箱に、さっき手にしていた包みが投げ込まれていた。その細長い形状と、見覚えのあるデパートのマークに思わず手を伸ばす。そっとめくり、淡いピンクの生地が見えたとき、服の中で汗が噴き出すのを感じた。
桜の地模様のついたネクタイ。桜川さんに似合いそうだと、俺も売り場で眺めたことがある。しかし、男にプレゼントするなんて、と恥ずかしくて買うのをためらっているうちに、期間限定のその商品は、すぐに売り切れてしまった。
もちろん、桜吹雪の替わりにしとしとと霧雨が紫陽花に降り注ぐ今では季節はずれなわけで、河合さんがいつからそれを持ち続けていたかを考えると、優越感は急速にしぼみ、口の中に苦味が広がる。
「俊哉」
廊下の先に澤辺の姿があった。アメリカナイズされているのか、桜川さんに一度紹介されただけの俺をファーストネームで呼ぶ。俺はゴミ箱から離れ、そちらに向かう。
「桜川さんなら、今……」
「いいよ、こっちに用があって寄っただけだから」
澤辺が俺の顔をのぞきこむ。
「元気ないな」
「そ、ですか?」
「日和に泣かされた?」
「はは、まさか」
それは俺じゃなくて……
「俊哉はかわいいな。日和なんかやめて、俺にしない?」
「何言って……」
顔を振り上げたと同時に、澤辺の唇がふれる。
はっとして頬を押さえて振り向いたときにはもう、澤辺はエレベーターの中だった。笑顔で手を振りながら、さわやかな男前が扉に隠れる。
今のは、何だーー?!
い ろ は に ほ へ と ち り ぬ る をわ か よ た れ
そ