満月(15禁)→
向こうから歩いてくるのは直樹のようにも見えるが、甲斐は半信半疑だった。
「お前、キツいなー」
「言うなって」
近寄ってみると、やはり直樹だった。天体に代わってお仕置きする感じのキャラになっている。
「美術クラスはアニオタの集まりか。すげーな」
「クジで決まったんだよ」
甲斐が、鮮やかな色の付け毛をもてあそぶ。
「さわんなよ、取れる」
「それより、足閉じろよ」
「ああ」
意外に神経質な甲斐の言うことを聞き、直樹はおとなしくひざを合わせた。
「篠原……か? いやあ見違えたな」
若い生物教師の伊東が通りかかる。付け毛から手を離し、2人は振り向いた。
「似合ってるよ、すごく」
手放しで褒められて、直樹が硬い笑顔を返す。
「右手はこっちへ……そうそう、もちょっと足開いて」
伊東が手取り足取り、決めポーズを伝授し始めた。
「写真撮ってくれ」
カメラを渡され、甲斐が若干ひきながら、シャッターに指をかける。瞬間、直樹の腰を抱き、かがんで頬を寄せて、写真に納まった。満足げな伊東にぽいとカメラを返すと、甲斐は直樹の手を引き「じゃ」とあわててその場を去った。
「なに、あいつ? 変なとこさわられなかっ……」
頬紅で、直樹の頬がほんのり赤い。背筋がぞくっと震え、甲斐が言葉を切った。
「直樹ー出番だよー」
黒いマントをまとった女子が、直樹を連れに来る。
「ちょっと待って」
ポケットからリップクリームを取り出すと、直樹の唇に塗り始めた。おとなしく唇を預けているその姿に、下半身がじんとしびれた。
「ちゃんと振り覚えた?」
「へへ」
「なんかやるのか?」
甲斐が聞くと、チケットを差し出す。
「200円」
校庭の仮設舞台、音楽に合わせて直樹が口パクでぎこちなく動いている。
「やっぱキツいよなー」
心の中でつぶやきながら、甲斐の視線は、あおりで目に入るスカートのすそにしっかりと注がれていた。先頭に陣取った伊東が、下から身振りで自発的に振り付け指導をしている。その熱血ぶりに、圧倒される。あの決めポーズの瞬間、フラッシュが数箇所で瞬いた。
ガコン
直樹が自動販売機からジュースを取り出す。相良が歩いてくるのが見えた。少しうろたえる。でも、この格好だと分からないかも? と思い直した。相良がステージを見ているはずもないし、甲斐も最初直樹だと気づかなかった。
うつむいて、なるべく顔を見せないように、すれ違う。案の定、相良はこちらに注意を払うことなく、まっすぐ前を見たまま歩いていた。ほっと息をついた背中に声がかかる。
「甲斐が探してた」
思わず振り返ると、目が合った。
「左、取れかけてる」
近寄ると、意外と器用に相良が付け毛を留め直す。
「ありが……」
あごの先を指で持ち上げ、礼を言いかける直樹の口をふさぐ。上下の唇が相良にすっぽり覆われる。直樹は上げかけた腕をそっと下ろして、ひざ小僧をくっつけた。
「ついてる」
リップの色が移った唇に手を伸ばすと、相良にがしっとつかまれる。直樹の指で口をぬぐうと、先をなめあげた。
「……伊東も探してた」
「あ」
「行くなよ」
「え」
「あいつやばい」
「ひゃひゃ」
指を解放すると、直樹の大きく偽装された瞳をのぞき込む。
「これ落としたら来いよ」
既に背を向けている相良に、直樹は軽くうなずいた。
「ジュース飲んだなー」
再びマントからリップクリームを取り出す。
「まだステージあるんだからね」
塗り直されながら、直樹はそっと、まだ封を切っていないジュースの缶を背に隠した。
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GLITCH-朝焼け