誰もいない教室に逃げ込む要に、追いついた大和が続く。
要は立ち止まると、大和の方を見ずに口を開いた。
「分かってるんです、ふざけてただけだって。特に意味はないって」
うつむいたまま、こぶしを握り締めた。
「もう竹下さんとは会わないでください」
いらいらと言葉をぶつける。
「分かった」
「俺がそんなこと言う権利ないの分かってます。ただ、しばらくでいいから、他の人といる所、俺に見せないで……」
情けない、情けない。自分の自身のなさを、大和につくろわせている。
要は手の平でまぶたをゴシゴシとこすった。
ふわっと大和の腕に包まれる。
「いいよ」
「そこまで束縛するなって、怒っていいんですよ」
「別に怒ってないよ。竹下と会わなくてもそんなに支障ないし」
「いいんですか、そんなこと言って」
文句を言う竹下の不満げな顔が浮かんで、要は少し肩を震わせた。
「さっきのはうそです」
要は顔を上げて、大和を見る。
「もう気が済みました」
離れようとした要を抱く腕に、大和が力を入れる。
「しばらくこのままで」
要は大和に包まれながら、目を閉じ、小さくうなずいた。
今更、心臓がドキドキと打ち始める。
「俺のこと嫌いになりません?」
「なんで?」
「うっとうしいって」
「あたたかくて、気持ちいいよ」
「キ……」
スしていいですか? と聞くのも面倒になって、要は大和の首に手を回して、唇を押し付けた。大和の腕から力が抜ける。
「これも気持ちいい?」
大和は目を閉じたまま、うなずいた。
頬と耳に口づけると、大和が首をすくめる。
大和の腕を取って、指先を口に含んだ。大和はその手を引っ込めようとする。
「ダメ」
要はそれを制すると、もう一方の手でシャツのすそを引き出した。
「やばくなるから」
「やばくしたのは遠野さんでしょ」
責任とってくださいね、と、シャツのボタンを外しにかかる。
「責任って……」
珍しくあわてる大和が面白い。
「じっとして」
大和を壁に押し付ける。
はだけた上半身のいたる所にキスを続けていると、ずるずると座り込んでしまった。
「お前にさわられると、気持ちよすぎてやばい」
大和が、首筋にうずめている要の頭を抱える。
要は顔を上げ、大和の両頬を両手で包んだ。大和も要の頭から頬へと、手の平を滑らせる。
お互いに吸い寄せられるように唇が近づく。一度軽くふれ、今度は鼻が当たらないように角度を変え、深く口づける。
徐々に激しくなり、その勢いで、大和は床に押し倒された。
やっと唇が離れた後も、激しい呼吸で見つめ合う。床にあお向けで転がっている大和の肌が紅く染まっているのを見て、要はもう限界だと思った。
「この状態でやめるのは惜しいですけど」
要が体を起こして離れる。
「もうそろそろ戻りましょう」
大和が切なげに見上げる。
「そんな顔しないでください。これ以上したら、止まらない」
今だって、十分苦しい。
大和はうなずくと、そっと起き上がった。
「あ、俺が」
シャツのボタンを留めようとした大和の前にかがむ。大和はおとなしく任せたが、なぜか指先が震えてうまく留まらない。
「おかしいな、ドキドキしてる」
「俺も」
大和の返事に、ごまかすように笑おうとした表情が止まってしまった。
「それは、俺とキスして興奮してるってことですか」
ボタンだけを見ながら、かみ合わない指先を動かし続ける。
「そう」
「いいんですか。そんなこと言って」
「アレ、買ってこようか」
要の心臓の鼓動が10倍くらい速くなった。
「そんな」
のどが渇いて、うまくしゃべれない。
「……のダメです」
かろうじて踏みとどまる。
「あの薬局の男、遠野さんに気がある」
一番近い薬局の店員の顔を思い浮かべる。
大和はぽかんとした表情で要を見つめた。
「なんで」
「なんでって、すごい話しかけられてたじゃないですか」
「そうだっけ?」
「腰にさわろうとしてた」
大和がけげんな顔をする。
「俺が邪魔したから、あきらめたけど……」
ぶつぶつと独り言のように続ける。
大和が一人でそんなものを買いに行ったら、どんないやらしい想像をされるか。
「とにかく、あの薬局には行かないでください」
「分かった」
気づくと最初のパターンに戻っていた。
「俺、進歩ないですね」
要が落ち込む。
「ありがとう」
興奮もほどよく冷めて、ようやく留め終わったボタンを見て、大和が要の手を包み込む。
軽く頬にキスをして
「行こうか」
と歩きだす。
不意打ちに、熱くなった頬を手で押さえ振り向くと、大和の背中に呼びかける。
「後で」
「了解」
大和が手をあげて、ひらひらと振った。