「あのブス、佐倉真奈美、今、大和が追いかけてる女」
水谷が、渡り廊下を歩いている女生徒をあごで示した。
「美人に見えますけど」
水谷がこんな風にけなすのは珍しいと思いながら、要は返す。
「本人がそう思い込んでるだけだよ。たいした顔でもないのに」
美人と付き合いなれている水谷にとってはそういう評価になるのかもしれない、と、要はうらやましいようでそうでもないような、複雑な思いで聞いていた。
「なんで手伝うの?」
「一緒にいたいから」
「だから、どうして、そんなこと言うの。私なんかといても面白くないし」
「そんなこと」
「ある!」
大和の言葉をさえぎった真奈美の剣幕に、大和が少し驚く。
「自分がどう見られているか、自覚はある。好きって言われて、つきまとわせて、いい気になって…似合わないくせに」
「誰がそんなこと言ってる?」
「みんな言ってる。私もそう思う。もうやめなよ。からかわれてるだけなのに早く気づけって、内心笑われてる」
「好きだよ」
大和が少し悲しげに言った。
「そんなのおかしい」
「俺が言っても?」
「本気じゃないって」
「信じるの?」
「信じるよ。水谷くんが言ったんだから!」
叫ぶように放った真奈美の言葉に、しばらくの気まずい沈黙。
「……ごめんなさい」
「水谷が、好きなの?」
「ごめん」
真奈美があきらめた表情で大和を見る。
「あいつには…」
「言うつもりはない」
「でも」
「分かってる。水谷くんなら、付き合ってくれるかもしれない。でも大勢の内の一人でしょ。そういうのはいやなの。私だけを見てくれないと。水谷くんのことは好きだけど、私は、それよりも自分のプライドの方が大事だから」
かわいげがないのは分かってるとつぶやいた、真奈美の横顔を見ながら、彼女のそういう潔いところが好きだと、大和は思った。
「佐倉さんが帰ってる」
要が部室の窓から外を眺めている。
「あれ、遠野さんがいない」
要の言葉に、水谷が顔を上げる。
そこへ、当の大和が入ってきた。
「佐倉、帰ってるってさ」
水谷が暗に追いかけなくていいのかというニュアンスを含んで伝えたが
「知ってる」
と大和は、部屋の隅の漫画を手に取り座った。
「また、振られたのか」
ぴんときた水谷が、いつものごとくからかう。
「いま、お前とは話したくない」
珍しいリアクションに水谷は眉を上げたが、たいして気に留めず、自分も雑誌に目を移した。