美里はいつも未来を不安がっていた。生きていくことが心配で、仕方がなかった。いつも張り詰めて、リラックスするときがないようだった。よく、つらそうな表情をした。唇をキュッとかみしめて、目を伏せるその顔を、大和は美しいと思った。
誰も救えない、本人すらもはい上がろうとしない彼女を大和は想う。こうして、彼の不毛な恋は始まった。
「神崎美里って、あの暗い女か?」
水谷は、よくやるよといった顔で言った。
「まったくあいつは変な女ばかり探し出して好きになる。自分の方を向いてない女ばかりをな」
水谷の言葉を聞いて、要はふと思った。
「もしかして、遠野さんって、惚れやすいですか」
よく振られるというのは、それだけ惚れた数があるということだ。
「今頃気づいたか。まあ、あいつは夢見がちなところがあるからな」
「現実主義者かと思ってました…」
水谷の意外な言葉に面食らう。
「だからだよ。夢は夢として割り切らない。現実の中に夢を持ってきて、そのままかなえようとする。だから、ふわふわしたこと言ってる奴よりよっぽど現実主義だし、かなえられない経験も何度も味わっている。それでも、現実の中だけで生きようとするんだよな」
「はあ…そんなもんですか‥」
水谷の分かるような分からないような説明に、要はうすらぼんやりと相槌を打った。
「今回、けっこうマジみたいっすよ。毎日彼女の所に通って‥」
「あいつは毎回、マジだよ」
水谷は「だから今回もふられるよ」と言わんばかりに言い捨てた。
「あいつはいつも相手が一番望んでいるものを与えて、嫌がられるんだよ。本人ですら気づいていない望みをな。女はみんな、もらうだけもらって去っていく。およそ、恋愛のテクニックってものを身につけていないよな」
駆け引きには自信のある水谷は言った。
「はあ・・テクニックって大事なんですかね」
恋愛経験の乏しい要は尋ねた。
「当たり前だろ。一番大事なポイントは、なんたって『傷つかない』 恋愛に限らず、人間っていうのは多かれ少なかれ、自分が傷つかないように小細工するんだよ。傷つけられても傷ついていない振りをする、とか、他人を傷つけないようにする、なんてのも、結局はそれによって傷つきたくないからだろ。なんだか知らねーけど、世の中は弱みを見せたら負けみたいなところあるからさ」
「じゃ、じゃあ、水谷さんも無理して生きてるんですか」
だとしたら意外だと思っていると
「んなわけねーだろ。俺は、バカな奴に何言われても気になんないし、そいつらをバカにして優位に立ちたいだけ。傷ついてるなんて時間の無駄だろ」
「はあ、やっぱり・・」
予想通りの答えに、要は少し傷つけられた気がして、水谷の罠にはまっているような気がした。
「遠野さんは傷ついても気にしないんでしょうか」
「そうだな。だからあいつはきれいなんだよ」
さらりと言った一言に、自分にはないものを持った大和に惹かれている水谷の気持ちが表れているような気がした。
要は、傷つかない水谷も、傷ついても気にしない大和も、どちらにしても強すぎて、やっぱり普通じゃないと思った。