やばい! と思ったときには、地面に押し倒されていた。雨がぱらぱらと顔に当たる。
大声を出そうとしたら、手で口をふさがれた。
「んー! んー!」
とできる限り声を上げていたら、頭がくらくらしてきた。
シャツが引き裂かれ、ボタンが飛ぶ。
大和はめちゃくちゃに手足を動かして暴れた。
手が離れたと思うと同時に頬を張られ、一瞬目の前が暗くなる。
その隙に男は、大和の両手を頭上にまとめ上げ、片手で押さえつけた。叫ぼうと開いた口にタオルが押し込まれる。
両足の上に乗られて動きが封じ込まれ、大和は暴れるのをやめた。
泥にまみれた顔を雨が洗い流す。静かにすると、男の息づかいと、ベルトを外す音、それと雨が頭上の木の葉を打つ音だけが聞こえる。
大和がおとなしくなったので、押さえる力が弱まり、男は愛撫に集中し始める。自分のものを取り出して、扱き始めた。
「う…あ…」
男の腰が浮き上がり、足にかけられた体重が軽くなる。
大和は全身の力を込めて、男を下から蹴り上げた。
「う!」
大和は急いで起き上がると口からタオルを捨て、うずくまる男を二三度蹴る。
すぐには動けなさそうなのを見て、そこから逃げ出した。
追いつかれる前に人のいる所に出なければ、誰か、誰か―
チャイムと激しく戸がたたかれる音で、笹原は目を覚ました。
「なんだよ」
ゆっくりと戸を開け、そこで動きが止まってしまった。
「どうしたんだ…お前」
ずぶ濡れで泥だらけの大和が、震えながら立っていた。シャツがぼろぼろに破れて肌が見えている。
「…悪い」
色の抜けた唇で、それだけ言った。
「とりあえず入れ」
大和を玄関に入れ、戸を閉める。
「上がれよ」
「汚れるから」
「そんなのいいから来い」
笹原は大和の手を引いて、風呂場に連れていく。
破れたシャツを脱がせながら
「誰にやられた?」
と聞いた。
「知らない奴」
「何された?」
濡れたジーパンも引き剥がす。
「される前に、思いきり蹴って逃げてきた」
「殺せっつってるだろ」
シャワーを調節して、温かい湯を大和にかける。大和は目をつぶって身を任せた。震えが徐々におさまってくる。
「助けてやれなくて、悪かった」
汚れを落としてよく見ると、体の至る所に擦り傷、打ち身、頬は腫れ、唇が切れていた。
「殴られたのか」
「気が遠くなりかけてやばかった」
「よく逃げてきたな」
笹原は大和に感謝する。
風呂から上がると笹原のパジャマを着せられ、ベッドに入れられた。
「悪い。なんか動転してて、お前のとこしか思いつかなかった。あいつが追いかけてくるかと思って」
「俺の所で正解」
笹原は微笑んで、大和の頭を撫でた。
「寝ろよ」
優しく言われて、大和は目を閉じた。