惑わし勝ち    11/02/2009
「宮里くんが、気にしていたね」
「そうですか」
「私の助手のはずなのに、君の方ばかり見ていて参ったよ」
「それは、失礼しました」
「相手してやれば」
「…………」
「興味なしか」
「はい」
「好きになる必要はない、感じさせればいい。そうすれば、君の勝ちだ」
「勝ち?」
「おぼれた方が、負けなんだよ」



 名取と別れて真っ先に始めたのが、タバコだった。キスの味が悪くなるからと、許してくれなかった。あれは別れたというのか、卒業したと表現すべきなのだろうか。

「一本もらえます?」
 喫煙コーナーで、斉藤の人懐こい笑顔に出会う。桜川は無言で、タバコの箱を差し出した。
「どーも」
 一本くわえて近づけてきた顔を避け、ライターで火をつけてやる。
「もっとキツいのないすか?」
 一度ふかし、斉藤が物足りない表情をする。
「図々しいんだよ」
 桜川は気分を害した風もなく、少し笑って答えた。
「いつものは?」
「今、禁煙させられてるもんで」
 斉藤がへらっと笑う。
「においが移るって、没収っすよ」
「うまくいってるみたいだな」
「安心してください。十年後のための修行ですから」
「なんだよ、それ」
「そのときには、きっちり満足させてあげますから、そのつもりで」
 身を乗り出してきた斉藤の顔にふーっと煙を吹きかける。
「その頃にはもう、そいつのにおいになじんでるよ」
「いや、なんなら今ここで……」
 斉藤は桜川にもらったタバコを灰皿に押し付け、首を傾ける。
「今なら、お互い同じ香りっすよ」
 火のついたタバコを斉藤の鼻先に近づけると、うっとひるんだ。
「タバコがまずくなる」
 斉藤がその手を包みこんで脇へやり、安全を確保する。
「相変わらず、馬鹿力だな」
「こんなのより、もっとうまいっすよ」
「たいした自信だな」
「癖になるでしょ」
 ぴちゃ、ぬれた音が響いた。
「ん……」
 桜川の声が鼻に抜ける。斉藤はそれを吸い込んで、眩暈を感じた。桜川のひかえめな唇を覆いつくす。舌で合わせ目をたどると、向こうから絡めに来た。
「ふ、んっ」
 今度は、斉藤の声が漏れる。競い合うように互いの口内を蹂躙する。だんだん体の距離も縮めていくと、桜川がひざを差し入れてきた。斉藤の緊張に、ビリビリと刺激が走る。
「ん、ん……ん」
 だ液がこぼれるのも構わず、必死で味わいきろうと隅々まで動かす。
 煙に包まれ、二人がすっかり同じ味になった頃――
「あつっ」
 斉藤が手を離し、桜川の指からタバコが落ちた。桜川がぬれた首筋をぬぐいながら、うっとりとした瞳でささやく。
「十年後、楽しみにしてるぜ」


「――というわけだ」
「途中から妄想入ってるだろ、その言い訳」


「お、桜川一人か」
「ああ、禁煙野郎はタバコがまずくなるから追い出した」
「最近は肩身がせまいよな〜」
 嘆きながら火をつける。
「今日はお預けだな、あいつ」



乱暴な空振り
逆転ホームラン(18禁)

           
          
      ま

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ツッコミ    09/22/2009
「鉄郎」
「なんですか」
「ナンデヤネンとか、いワへんの?」
「言いません」
「神戸だろ」
「神戸にそんなおかしな話し方の人はいません」
「いワへンの?」
「言わへんよ」
「ほら」
「どこが」
「一緒じゃん」
「なんでやねん」



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「ね、どう思う?」
「なにが?」
「内井さん。日和と同じ大学だって、知ってた?」
「学部違うからな」
「内井さんは日和のこと知ってるって」
「栞と似てるからじゃねーの?」
「うん、いとこだって言ったら、納得してた。で、どう?」
「俺の感想?」
「そう、そのために日和に会わせたんだから」
「ダサい」
「ははっそりゃ日和からしたらね」
「栞はダサいのが好きなんだろ」
「そういうことになるかもね」


 ベッドの中から二人でぼんやりとテレビを眺める。芸能人がカラオケで歌うだけという、意義の見いだしづらい番組が、なんとなく過ぎていった。
「お祝いに」
「ん?」
「歌ったりするんですか?」
「するかよ、そんなダセーこと」
 いや、惚れると思うけど。
「受けてたじゃないですか、この前のカラオケ」
「全員酔ってたからな。お前の『桜』も、なかなかだったぜ」
 俺の前髪をかき分けながら、ニヤッと笑う。
「あれは忘れてください」
 お世辞にもうまいとは言えない。俺は首を回して、少し顔をそらす。
「栞のこと、京介に聞いたんだろ」
 桜川さんが、ついでのように言う。
「……はい」
「あいつに、あまり近づくなよ」
「え」
 それって……?
 あわてて桜川さんの顔を見るが、無表情に近く、何かを考えているようで、とても嫉妬しているようには見えなかった。
「あいつとはいつも一緒だったから……」
 澤辺と同じことを言う。
「……俊哉なら大丈夫か」
 思い直して、くしゃと頭をなでられる。しかし、戯れに頬にキスされたことも、澤辺の胸で泣いたことも話していない俺は、胸がチクッと痛んだ。